SLEEP FAQ

Q

昼寝の効果的な取り方、昼寝の最適な睡眠時間って?

更新日:2023/09/28

A

赤ちゃんや幼い頃は必ず昼寝をしていましたが、大人になると昼寝をすることはあまりありません。
ですが、昼食後に眠気が襲ってきて仕事がはかどらないという経験をされた方は多いのではないでしょうか。眠気と戦いながら仕事をしていると、集中力が低下してミスが起きやすくなります。スペインやアルゼンチンなど海外では、午後の仕事や学校の勉強を効率よく行うために「シエスタ」という昼寝時間を設ける習慣があるくらい昼寝が大切にされています。
どのような効果が昼寝にあるのか?昼寝をする際に気をつけるポイントなど具体的に紹介します。

昼過ぎに眠たくなる時の3つの原因

なぜ、昼食後に眠たくなるのでしょうか?誰にでも起きる昼食後の眠気は食後の消化吸収を助けるために全身の血液が胃腸に集中し、脳の血流が少なくなることが原因だと言われています。
他にも単純に食後であること以外に、次のような3つの原因があります。

  • 体内時計による影響

    原因の1つには人間の体内時計による影響があります。
    十分に寝ているはずなのに、日中に眠気に襲われるという経験をしたことはないでしょうか?
    これは、人間の体内時計に備わっている睡眠と覚醒のリズムが原因です。人間の体内リズムにより、ちょうど食後にあたる午後2時頃に眠気が起きることがわかっています。食事をとっていない場合にもこの時間帯は眠気がおきやすいのです。

  • 睡眠不足

    睡眠不足も原因の1つとなります。米国の国立睡眠財団による理想の睡眠時間は、18歳以上の成人で7時間~9時間が推奨されています。しかし、経済協力開発機構(OECD)が2021年に行った調査によると日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、加盟国のうち最も睡眠時間が短いことがわかりました。睡眠時間は個人差があるため、推奨時間をクリアしていれば良いというわけではありませんが、日中の時間帯に頻繁に眠気を感じるようであれば、その原因は睡眠不足かもしれません。

  • 栄養の偏り

    栄養の偏りが原因となり眠くなることもあります。脳のエネルギー源はブドウ糖ですが、その原料である糖質の過剰摂取が原因で眠気に襲われることや食後に集中力や判断力が低下することがあります。また食後はインスリン分泌による血糖値低下で眠くなることもあります。朝食を食べない傾向にある方は、ブドウ糖が不足した状態が続き、その後の食事で急激な血糖値の上昇・下降が起きるため、眠気が誘発されることも考えられます。たんぱく質やビタミン、ミネラルなどの栄養も脳の活動に欠かせないため、これらの栄養が不足すると、集中力の低下や疲労を感じやすくなり、眠気へとつながるでしょう。

昼寝に期待できる効果

昼寝をすることでどのような効果があるのでしょうか。
パワーナップという言葉を聞いたことがありますか?パワーナップとはお昼の12時~15時までの間にする短時間(15分~30分程度)の昼寝のことです。パワーナップは、社会心理学者のジェームス・マースの研究により広まった仮眠法で、睡眠の深い状態であるノンレム睡眠だけで目を覚まし、脳の疲労をとることができると言われています。次にパワーナップの6つの効果をご紹介します。

  • 疲労回復

    短時間の昼寝をすることは、疲労やストレス軽減などの効果にも期待ができます。長時間にわたりパソコンを使用する仕事や、多くの情報を処理しなければならない仕事などは、体力的にも精神的にも負荷が大きくなり疲れやストレスが溜まります。パワーナップによって、脳だけでなく体の疲労も軽減され、その後の作業効率が良くなると言われています。疲労が重なり続けると、大きな事故やミスにもつながる可能性があるのでパワーナップを有効的に利用して疲労回復しましょう。

  • 睡眠のリズムが整う

    パワーナップは、睡眠のリズムを整え、規則正しい生活を送りやすくなる効果があります。昼寝をしてしまうと、夜眠れなくなるのでは?と不安になる方もいるかもしれませんが15分~30分程度の短時間の昼寝は、体内時計のリズムに従ってとる睡眠ですので、むしろ夜の入眠がスムーズになり、寝起きの目覚めなど、生活のリズム全体が良くなるので、結果的に睡眠の質も高めることができるのです。

  • 健康に良い

    昼寝と心臓病発症との関係性について調査を行ったところ、30分以下の昼寝をすることで、心臓病の死亡リスクが低下するというデータがあります。また、国立精神・神経医療研究センターでは、アルツハイマー型認知症のリスクを下げるという研究結果も発表もされています。この他にも昼寝をすることで血圧が下がり、高血圧の緩和や脳梗塞や糖尿病などの予防にもつながると言われています。つまり短時間の昼寝は健康に良いということが、世界の多くの研究で実証されているのです。

  • 学習能力の向上

    パワーナップは学習力の向上につながります。
    睡眠時間を減らし、長時間勉強しているのに、学習成果がなかなか上がらないと悩んだことがあるかもしれません。睡眠不足の状態では、集中力や記憶力、注意力などが低下するためです。最近では、小中学校、高校でも10分~15分程度の昼寝を導入する学校があるほど、頭がすっきりして集中力がアップするとパワーナップが注目されています。もちろんこれは社会人にも当てはまりますので、パワーナップにより集中力がアップすれば、仕事の効率化にもつながるでしょう。

  • 記憶力の強化

    パワーナップは記憶力の強化にもつながります。
    睡眠は、体や脳を休めるためだけでなく、脳内の情報の整理や記憶の定着を行っていますので、記憶力を向上させるためにはとても重要です。覚えたことを忘れないようにと眠らない方法をとる方もいるかもしれませんが、眠らないと見たものや聞いたものなどの情報が刺激を受けてしまい、覚えた記憶を忘れてしまいがちです。例えば、テストの前に徹夜で勉強をして覚えたことは、新たに見聞きした情報の刺激で忘れてしまう可能性があります。睡眠によって、脳内で情報の整理、記憶の定着が行われ身につきやすいと言えるため、大学受験・模擬テストなどを受ける時は勉強後に一旦短時間でも睡眠をとったほうが良いでしょう。

  • 覚醒作用がある

    パワーナップによって覚醒作用も期待できます。
    眠くなった時の対策方法としてコーヒーを飲む、ガムを噛むことで覚醒して目を覚ますという方もいるでしょう。このように寝ないようにする方法以外に目を覚ます方法として挙げられるのがパワーナップです。15~20分程度の仮眠によって脳を覚醒させることができるのです。脳が覚醒されれば、頭がぼーっとすることもなく、その後の作業効率が上がります。その後眠気に襲われることも減るため、眠気低減効果もあるとされています。

昼寝のデメリットはある?

昼寝の効果について紹介してきましたが、もちろん以下のような昼寝のデメリットもあります。

  • 30分以上寝ると夜の睡眠に影響が出る

    15分~30分の昼寝はさまざまな効果がある一方で、30分以上昼寝をすると、体内時計が乱れて夜になかなか寝付けなくなってしまう可能性があります。昼寝で深い眠りをとると、昼間の覚醒時間が短くなります。本来夜に必要な深い眠りが減少してしまい、結果的に睡眠の質が悪くなってしまいます。

  • 起きるとぼーっとした状態になる

    30分以上の睡眠は、疲労感や倦怠感を増長させるおそれがあります。昼寝だけに限られたことではありませんが、睡眠のリズムは、入眠後30分ほどで深い眠りであるノンレム睡眠に入ります。このノンレム睡眠の段階で起きてしまうと、すぐには頭が働かず作業効率が悪くなります。また寝過ぎると、自律神経の乱れから頭痛などの体調不良を引き起こしやすくなることも考えられます。

  • 病気の発症率を上げるリスクがある

    1日1時間以上昼寝をする方としない方を比較すると、1時間以上昼寝する方のほうが循環器疾患の発症率が約2倍になるという研究結果もあります。つまり長時間の昼寝は、病気のリスクを高めてしまう可能性があると言えるでしょう。

【世代別】昼寝の効用・メリット

一般的に、大人は昼寝することはあまりなく夜に睡眠をとりますが、赤ちゃんは必ず昼寝をするなど、睡眠のサイクルは、赤ちゃんから高齢者まで年齢によって異なります。ここでは世代における昼寝の効用とメリットについてご紹介します。

  • 赤ちゃん

    赤ちゃんの1回の睡眠時間は45分程度と言われています。まとめて長時間寝るのではなく、朝・昼・夜を問わず、短い睡眠サイクルを繰り返します。これは、赤ちゃんの脳がまだ発達途中であり、睡眠と覚醒を交互に繰り返すことで、徐々に生活リズムが備わってくるためです。

  • 未就学児(保育・幼稚園児)

    未就学児の場合は、1歳くらいから昼寝の回数を分ける必要はなく、正午に1時間半~2時間半ほど寝れば、1日を元気に過ごせると言われています。4歳前後になるとほとんど昼寝の必要はなくなり、1日中起きて活動できるようになっていきます。ただ、たくさん遊ぶなどして疲れると眠気が起きることもありますので、その時は30分~1時間程度昼寝をさせるようにしましょう。

  • 学生

    学生になると夜に睡眠をとり、日中は学校で授業を受け、放課後部活動に専念するなど活発に動いています。勉強やスポーツなどやらなければならないことが多くなると、夜の睡眠時間が減り、昼間に眠気を感じる学生も少なくないでしょう。なかなか学校では難しいかもしれませんが、パワーナップを行い30分未満の昼寝タイムを設けると、成績向上につながる可能性もあります。

  • 働き盛りの大人

    働き盛りの大人も学生と同様に、夜に睡眠をとり、日中は起きて働くという生活パターンを身につけています。たとえ昼間眠気に襲われたとしても、我慢して働くという方が多いでしょう。先ほどもご紹介したとおり仕事のミスや事故を避け、仕事の効率を上げるためにも眠い場合にはパワーナップをおすすめします。

  • 高齢者

    年齢を重ねていくと、脳の機能は少しずつ低下していきます。そのため、高齢者の場合は起きていても眠い、眠っていても目が覚めるなどの状態になりやすくなります。近年では、高齢者も健康を維持するために30分未満の短い昼寝をすると良いという研究結果も出ています。

効果的な昼寝の取り方

昼寝の効果を生かし、しっかり疲れをとるための効果的な時間や環境など昼寝のとり方のポイントをご紹介します。

適切な昼寝の時間帯・仮眠時間

昼寝は健康や記憶力の強化にも良いことがわかりましたが、どれくらいの時間、昼寝をすれば良いのでしょうか。厚生労働省が2014年に策定した「健康づくりのための睡眠指針」によると15時前の20~30分が午後の眠気を覚ますリフレッシュの方法として取り上げられています。一方で15時を過ぎてからの昼寝は、夜に思うように寝付くことができず、睡眠の質が下がり、疲労感を翌日に持ち越してしまうおそれがあるため推奨できません。

適切な昼寝の環境・姿勢

眠りに入りやすくするには部屋やまわりを暗くすることや、1人きりになれるスペースを確保することなどが効果的です。職場に仮眠室や休憩室などがあれば利用し、個別のスペースを確保しましょう。暗さに関しては、アイマスクの使用や机にうつ伏せの状態になり、暗い環境をつくることで眠りに入りやすくなります。

仮眠前にコーヒーを飲むと効果的

コーヒーを飲むと眠れなくなるという印象が多いと思いますが、カフェインが体に吸収されるまでには、時間がかかるため20~30分くらいの短い仮眠でしたら、仮眠前にコーヒーを飲むと、すっきりと目覚めることができます。

昼寝の後にすっきり起きるためのポイント

昼寝をした後にすっきり起きるためには、明るい光のある場所に移動することが効果的でしょう。2000ルクス以上の光は、覚醒効果が高いと言われているため、意識的に太陽の光を浴びるなどの工夫をしましょう。また、起きた後に軽くストレッチをするのも良いでしょう。筋肉が伸ばされると脳に刺激が伝わり、覚醒しやすくなります。冷たい水での洗顔や温かいタオルで顔を拭くことも交感神経を活発にさせ、すっきり起きるために効果的な方法です。

まとめ

昼寝についてどんな効果があるのか?昼に眠くなる原因や、効果的な昼寝のとり方などをご紹介してきました。午後に眠くなるのは、体のリズムの中では自然な欲求であり、さまざまな研究結果からも眠いことを我慢して活動するよりも、パワーナップなど短い時間の仮眠をとったほうが効果的という結果が出ています。ただし、寝過ぎの場合は体に良くない影響を与えるおそれがあるため、適切な時間や回数を守り、昼寝を効果的に行うことで勉強や仕事のパフォーマンスアップにつなげていきましょう。

この記事の監修者

医師 木村眞樹子

日本睡眠学会専門医、日本内科学会 専門医
日本循環器学会専門医、日本医師会 認定産業医

東京女子医科大学医学部卒業後、東京女子医科大学病院循環器内科入局。現在も東京女子医科大学病院、および関連病院で内科、循環器科、睡眠科として診療にあたるほか、嘱託産業医として企業の健康経営にも携わっている。

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